<早星と千希>

プロ「本気…なのか?」
プロデューサーは身を乗り出して聞きなおした。

千早「勿論本気です。わざわざ皆を集めて冗談なんて言いません」
千早の言葉と瞳には固い信念が込められていた。

美希「千早さん…ミキ、なにかいけないこと…した?」
美希が申し訳無さそうに千早に上目遣いで伺う。

千早「美希のせいとかそんなんじゃ無いわ。ただ、やっぱり私は一人の歌手として進んで行きたいの…」
美希の態度に我がままを貫かんとする自分に罪悪感が込み上げてきた。

美希「そっか…」
小さく呟くと美希は完全に下を向いてしまった。

プロ「…」
沈黙が過ぎていく中、パラパラと紙を捲る音だけが聞こえている。

音の主は律子だった。

ショックで何も出来なくなっているプロデューサーを尻目に律子はメモ帳を捲っていた。

律子「ふむ、目立ったライブとかは無さそうね。感謝祭が大イベントだっただけにみんな少し休暇になってるみたいだし」
律子はメモ帳を確認しながらそう呟いた。

プロ「…律子はティアラのスケジュールも知ってるのか?」

律子「自分とティアラのは、一応」
そんな二人をよそに千早はユニット仲間の美希に視線を移した。

美希は相変わらず下を向いたままだった。

ただ違ってたのは ぽたり ぽたり と時折雫が落ちていた。

そんな美希を見ていると千早も眉間がツンと痛む。

千早「(ごめんなさい…美希)」
涙が滲み出て来るのが感じられた。

それと同時に美希やプロデューサーに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになると千早も下を向いた。

ただじっと下を向いて涙を堪えた。

泣く訳には行かない。

無理を言って勝手に離れようとしているのは自分なんだ。

と言い聞かせていた。



……


美希「仕方ないよね♪」
美希の言葉になにやら話し合っていた律子とプロデューサーも合わせて美希に向き直った。

千早「え?」
千早も驚いて顔を上げる。

美希「千早さんが決めた事だもん。きっと大事な想いが沢山詰まってるんだよ。ミキも同じだもん」
そう言いながら美希はグイッと涙を拭った。

美希「見たこともない世界を千早さんは思い描いてるんだよね♪」
美希は涙で濡れた笑顔で続けた。

千早「…」

美希「美希も一緒♪ずっとここにしまってあるの。そういう場所があること、想っていれば少しずつ近づける事。ハニーと千早さんが教えてくれた」
そう言うと美希はそっと胸に手を当てた。

千早「美希…」

美希「だから、美希は泣かない!道は変わっても同じ夢を追う仲間だもんね♪」
美希はにっこりと元気良く微笑んだ。

千早「美希…ありがとう」
千早もいつもの様に優しく微笑んだ。

その時、今まで堪えていた雫が頬を静かに伝っていった。

美希「頑張ってね、千早さん。美希も頑張るから♪」

千早「お互いにね、美希」
二人は最後に握手を交わした。

旅立つ仲間と見送る仲間、そして同じ夢を追う仲間として…

そんな二人を眺めがならプロデューサーと律子は小さく微笑んでいた。

プロ「決まったみたいだな…」

律子「まぁ、初めから私たちが口出しした所で何も変わらないのでしょ」

プロ「さぁてと、記者会見とか諸々のスケジュールを立てないとなぁ」

律子「手伝いましょうか?」

プロ「そうだな…俺は新しいプロデューサーを当たってみようかな、社長と相談して」

律子「じゃあ私はスケジュールと広報を…」




そして数日後、千早の電撃発表をマスコミに公表しティアラを脱退、ソロデビューする事を宣言した。

この事によりティアラは解散、記者会見の場においてそれぞれのプロデューサーがそれぞれのユニット名を公表した。

美希P「解散に伴い彼女らはそれぞれソロとして心機一転デビューする運びとなりました」
がやがやと騒がしく話し始めるマスコミを無視して美希のプロデューサーは話しを続けた。

美希P「それではこの場をお借りして新生ユニット達のユニット名を発表させて頂きます」
美希のプロデューサーの言葉に騒がしかったマスコミは一斉に口をつぐんだ。

美希P「では星井美希ソロユニットのユニット名は…<スピーディスター>」
その瞬間パシャパシャとカメラのフラッシュが焚かれた。

そのユニット名を聞いて千早は驚いた。



記者会見の二日前、千早は新しいプロデューサーと事務所で初顔合わせをし色々な取り決めをしていた。

男性「如月 千早さん?」
声がする方を振り返るとそこには若い男性が立っていた。

千早「そう、ですが。あなたは?」

男性「あぁ、良かった。俺は君の…っと元プロデューサーの紹介で来た…」
そう言うとその男性はIDカードを自分の顔の前にかざしてみせた。

千早P「君のプロデューサーだよ」
ニッコリ微笑むプロデューサーの笑顔に千早も微笑を返した。

千早「如月 千早です。以後よろしくお願いします」
今までのプロデューサーより多少若く見えるその男性はやはり以前のプロデューサー同様髪の毛を上げてさっぱりした印象を受けた。

千早P「こちらこそよろしく!話しは聞いてるかな?記者会見の事やユニットの事は」

千早「伺ってます。すいません、急な話しではなかったでしょうか?」

千早P「え?あぁ、俺の事心配してくれてるの?」

千早「は、はい…その、まぁ」
新しく見るプロデューサーの笑顔に千早は思わず目を逸らした。

千早P「ありがと。まぁ…いっちゃなんだけどあまり仕事は無かったって言うか…あ!でも仕事が出来ないって訳じゃ…多分」
そのあまりの焦りように千早はクスクスと笑い出した。

千早「アハハッ、ごめんなさい。別にそんなつもりで言ったわけじゃないんです」

千早P「うん。俺も先輩から話しはきいてるけどその、頑張っていこうよ!早速、ユニット名なんだけど何か考えがあるかい?」

千早「はい、考えてます。いきなりですが我がまま一ついいでしょうか?」

千早P「え?あ、うん。聞ける事なら」
そう言うとプロデューサーは右の親指の爪を唇に当てた。

千早「ユニット名は<サウザンド ホープ>で考えてるんです。出来ればこれは変えたくないんです。ダメですか?」

千早P「<サウザンド ホープ>ねぇ…うーん」
プロデューサーは少し考えているようだった。

その姿を見て千早は新しいプロデューサーの癖を一つ発見した。

千早「(爪を噛むのが癖なのかしら…)」

千早P「なるほど、<サウザンド ホープ>か。なるほどね、<千>の<希望>だね。良いと思うよ」
そう言うプロデューサーの言葉に千早は耳を疑った。

まさかこんなにすぐokが出るとは思っていなかったからだった。

千早「あの…本当によろしいので?」
聞きなおす千早に対してプロデューサーは逆に不思議そうな顔をしていた。

千早P「なんで?良いと思うよ。希望を持って飛び立って行く千早さん。千早さんの<千>と美希ちゃんの<希>を取ったんでしょ?…違ったかな?」
淡々と語るプロデューサーに千早は少し感心していた。

恐らく前のプロデューサーならそこまで読めはしなかっただろう。

安直だが自分なりに美希の想いや自分の想いを詰めていつまでも忘れる事の無い様にこの名前を決めたのだった。

千早P「俺は良く解らないけど、きっと美希ちゃんも同じような事考えてると思うよ。お互い忘れない為に、一緒に進む為のユニット名」

千早「…」

千早P「俺は好きだな、そう言うの。まぁ、ここだけの話しだけど…」
そう言うとプロデューサーは声を潜めた。

千早「…」

千早P「先輩はこう言うの疎いから気付かないかもしれないけどね」
言い終えるとプロデューサーはニコッと微笑んだ。

千早「クスッ、アハハハッ」

千早P「あれ?そんな面白い事言ったかな?」

千早「アハハハハッ、いえ。同じ事を思ってたものですから」

千早P「あははっ、やっぱりそうだよねぇ。先輩は不器用だから」

千早「そうですね。良いプロデューサーな事に違いはないですけどね」

千早P「そうだね。先輩はああいう人だから好かれるのかも知れないけどね。良い人だと思うよ。きっと心配するよ、千早さんの事」

千早「ええ、きっとそうですね。でも、心配させない様に頑張らないと。なのでお願いしますね、プロデューサー!」

千早P「頑張ろう!千早さん」

千早「あの…千早って呼んでください。さんづけは慣れてませんし、前もそう呼ばれてたので」

千早P「そっか…じゃあ頑張ろうね、千早!」

千早「はい、プロデューサー!」



美希のプロデューサーの発表を聞いた千早は美希と目を合わせた。

美希は応える様に千早に笑顔を向けた。

その笑顔を見て千早も笑顔を返した。

千早P「続きまして如月千早のソロユニット名を発表致します」
千早Pが一息置く間に千早はチラリとプロデューサーの顔を伺った。

プロデューサーはそれ気付いたのかパチリとウインクで返事をした。

それを見て千早は安堵の溜息を小さく着くとプロデューサーの言葉を待った。

千早P「如月千早ソロユニットのユニット名は…<サウザンドホープ>です」
それを聞いて今度は美希が驚いて千早を見た。

千早はクスッと微笑んだ。

千早「(プロデューサーの言うとおり、だったかもしれないわね)」

千早P「ユニット名はそれぞれ<ティアラ>と言うユニットを旅立つという事でティアラの文字は一切使わないようにし」
千早P「彗星の様な勢いで駆け上がって来た<ティアラ>を引き継ぐ様に素早い星と言う意味での<スピーディスター>」
千早P「新しく旅立つ幾千の希望と言う意味で<サウザンドホープ>と言う事になりました」
千早のプロデューサーが言う説明を聞きながら千早も美希もそして美希のプロデューサーもユニット名にもう一つの意味がある事を感じていた。

千早「(<スピーディスター>、<早>い<星>)」

美希「(<サウザンドホープ>、<千>の<希>望)」

美希P「(それぞれの名前を背負って、そして名乗って行くのか…)」

千早P「それでは、以上でユニット発表の会見を終了させて頂きます」
一同が礼をすると今まで以上にフラッシュがけたたましく焚かれた。

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